第2回 SPSS Open House 研究奨励賞

Document Sample
第2回 SPSS Open House 研究奨励賞 Powered By Docstoc
					株式会社インテージ協賛            第 3 回「SPSS Open House 研究奨励賞」投稿論文




                    服飾ブランドの事象構造分析
              -Kohonen ネットワークを応用した学際研究モデルの開発-

                                        慶應義塾大学湘单藤沢キャンパス 熊坂賢次研究室

    小野田哲弥(政策・メディア研究科博士課程)/中野友香(総合政策学部)/伊藤江里・和田妙子(環境情報学部)


    はじめに
 高度消費社会では、自動車や家電といった工業製品から音楽・映画といったエンタテイメント作品に至
るまで、凄まじいスピードで次々とモノが生み出され氾濫していく。それはいつしか人間のキャパシティ
を凌駕し、それらを生業とし専門領域とする人々でさえ、すべてを網羅的に把握することが叶わないまで
のカオス的状況を作り出している。
 文化事象の細分化は「サブカルチャー」として研究が進められている。それは「オタク研究」と同義語
のように解釈されている感もあるが、何もマンガ・アニメといったジャンルのみが細分化しているわけで
はない。今回扱う「服飾ブランド」も同様の渦中にある。多様化極まったそれらの全体像を何とか掴みた
いという切実な願いは、多くの研究者によって共有されているに違いない。しかし、当該ジャンルを詳し
く調べ知識を身につけていくうちに、いつしか特定のものに愛着が生まれ、評価基準が加わり、中立性を
維持できなっていくのもまた真実である。つまり専門性の獲得は、それと引き換えに、全体像を見失う蛸
壺化の危険を孕んでいるといえなくもないのである。
 本論文の提出に至るまでの途上で、小野田は文献 2 などにおいて成果発表を重ねてきた。だが上記矛盾
点を踏まえれば、ゲーム等に関してもつ若干の知識が、逆に分析の障害となった可能性も否定できなくな
る。培ってきた分析手法が真に信頼できるものであるためには、敢えて無知に等しいジャンルを分析対象
としながら、なおかつ当該ジャンルの専門家をも納得させられる成果を提出することが求められよう。
 今回の分析は、分析モデルの汎用化と洗練に主眼を置く小野田と、データ分析を専門とはしないが「服
飾ブランド」に強い関心を寄せる中野・伊藤・和田による共同研究という、無謀に近い試みであった。だ
がその研究プロセスの中で、双方の限界点が浮き彫りになると同時に、互いの興味分野だけに固執してい
たのでは決して得られなかった、新しい知見の発掘(マイニング)に、文字通り成功することができた。
そのコラボレーションの成果を、以下に報告する。学際研究分野における今後の発展材料に供されれば幸
いである。




1       研究背景

1-1    iMap プロジェクトの歩み
 慶應義塾大学熊坂賢次研究室が推し進める iMap プロジェクトは、多様性に彩られた日本社会を、最新
のテクノロジーを駆使して実証的に把握しようとする試みである。インターネットを利用することで
                       、質問紙を配布するコストを削減し、WEB ブラウザのフレーム機能や検索機
(http://www.imap.gr.jp/)
能の活用により、ユーザの回答コストをも軽減した。また大容量データベースと接続することにより、更
新可能な質問項目をセットし、ユーザから寄せられたそれらへの回答を即時に自動的に書き込み、膨大な
履歴を半永久的にストックすることを可能にしたのである。iMap は 35 のジャンル1に帰属する合計 17 万

1   iMap のジャンルは、邦楽/洋楽/文芸/マンガ/知識/芸術/邦画/洋画/飲食もの/グッズ/自動車/情報メディア/雑誌/野球/


Kumasaka Lab.@Keio Univ. SFC
                                                                1/12
株式会社インテージ協賛            第 3 回「SPSS Open House 研究奨励賞」投稿論文



件の社会・文化事象データベースを背後に持つ。2000 年 10 月に外部公開され、現在 15,000 人を超える
ユーザ数を獲得している2。
 iMap は社会学研究の一環であるから、人々(ユーザ) 3の分析は重要な目標の一つである。 しかしながら、
ライフスタイルの多様化が進む今日では、趣味(アイテム)4の全体像を解明することが先決である。だが性
質の異なるすべてのジャンルを同一俎上に載せるわけにはいかない。よって今日まで、幾つかの特定ジャ
ンルに対象を絞り、その内部を緻密に分析するサブプロジェクトを進めてきたのである。iMap のような
タイプの調査は前例がないことから、すべてが試行錯誤の繰り返しであった。後述する分析モデルは、こ
れまで扱ったジャンル「マンガ」  「ゲーム」の分析過程によって錬られてきたノウハウである。


1-2    iMap 服飾ブランド分析の意義
 消費化が、女性の社会的地位向上と軌を一にしている点は多くの文献が物語るところである。       「機能」
よりも「記号」が優位的な社会が消費社会であるなら、  「服飾ブランド」とはまさにその最たるものであろ
う5。ブルデューの「ハビトゥス6」に多くの社会学者が共感を覚えたのも、男性的な職業(生産)空間の限
界を、女性的な趣味(消費)空間が穴埋めしてくれると期待したからに他ならない。高級ブランドへと志向
する女性の消費行動は、仕事に邁進する男性の出世行動以上に“卓越化”システムの支配下にあるとさえ
いえる。日本における消費化のピークとされるバブル期には  「頭の先からつま先までシャネル」   (文献 3,p.8)
という女性が“シャネラー”として流行語にまでなった。当時ほどの過激なブランド礼賛は鳴りを潜めた
とはいえ、ルイ・ヴィトン・ジャパンが表参道(2002)や六本木ヒルズ(2003)に新店舗を開店した際の長蛇
の列などは記憶に新しい。女子大生の卒業旅行地としてイタリアが根強い点もブランド人気と無関係では
あるまい。依然としてその影響力には絶大なものがある。
 だがバブル崩壊以降、ブランド事象が変質を迫られてきた点も看過できない。      “全身”に囚われること
なく、財布やバッグ、小物等、部分的にブランドを取り入れ、その編集を楽しむ傾向も増えた7。また、男
性顧客層の新規開拓を図るユニセックス化や、業界内外のコラボレーションも進み8、2000 年に新生ブラ


サッカー/格闘技/スポーツ他/男性タレント/女性タレント/海外男優/海外女優/TV ドラマ/TV アニメ/TV バラエティ/都市・空
間/政治・経済/社会・世相/ビデオアニメ/ゲーム/服飾ブランド/服飾スタイル/流行語/広告コピー/キャラクター/海外旅行の
計 35 ジャンルである。
2 今日まで行われた最大規模の計量的サブカルチャー研究としては、宮台真司・石原英樹・大塚明子『サブカルチャー神話解

体』(PARCO,1993)が知られており、そこにはサンプルに関して次のような記述がある。「㈱リクルートの協力を得て、90 年 7 月、
関東 7 都県、関西 6 府県在学の大学生全員の名簿から 1 万人を無作為抽出して多目的調査を実施、郵送法で一五三八人の
(データクリーニング後)の回答を得た」(p.86) iMap のトップページにあるように、iMap の登録ユーザは 1950 年生まれから
1985 年生まれまでの、男性約 9,000 人、女性約 7,000 人によって構成され、その居住地も 47 都道府県すべてに渡っている。
調査体系が異なるため単純な比較はできないが、その規模を測る一つの指標となろう。
3 iMap はサンプリング調査ではなく、被調査者に自由意志で調査に参加してもらっていることから、「サンプル」とは呼ばず

「ユーザ」という呼称を用いる。
4 文献7 ではアイテムを「分析目的のために、提供されている製品やサービス」(p.22) としている。iMap では、マンガ家名やス

ポーツ選手名、ブランド名など、事象の固有名詞を「アイテム」と呼ぶが、マーケットバスケット分析をモデルにしており、その回
答方法は、買い物カゴに商品を入れていく感覚に近い。
5 消費社会の定義については、ジャン・ボードリヤール(Jean Baudrillard)『消費社会の神話と構造』(1970)に詳しい。今村仁

司・塚原史訳(紀伊国屋書店,1979)。
6 「ハビトゥス」とは、職業空間と趣味空間との表裏一体構造を維持するシステムだと理解されたい。彼の主張の概略を述べれ

ば、「職業空間」の所得/学歴という変数に、「趣味空間」の支出/教養という変数が対応している。所得も学歴も高い“医者”のよ
うな職業人は“オペラ”のような趣味をもつという議論である。その意味で職業空間は IN の空間、趣味空間は OUT の空間とい
えよう。ピエール・ブルデュー(Pierre Bourdieu)の主著としては、『ディスタンクシオン-社会的判断力批判-』(1979)が知られて
いる。石井洋二郎訳(藤原書店,1990)。
7「いま、成熟社会を迎え、市場には商品が溢れ、商品情報が乱れ飛ぶ中で、生活者は賢くなった。企業が発信する商品情報
やブランド情報を鵜呑みにすることは無くなったのである。生活者は、自分自身のセンスで様々なブランドを編集し、生活を演
出している」(文献 3,p.8)
8   近年の例では、山本耀司と adidas、現代アートの村上隆と LOUIS VUITTON のコラボレーションなどが挙げられる。


Kumasaka Lab.@Keio Univ. SFC
                                                                   2/12
株式会社インテージ協賛                   第 3 回「SPSS Open House 研究奨励賞」投稿論文



ンドの UNIQLO が一大旋風を巻き起こした点も特筆される。もはや「HERMES を持っているからこん
な人」といった一元的解釈は機能不全であり、  「庶民派ブランド」「高級ブランド」といった自明な解釈も
憚られる。文献 3 が示すように「ブランドは、個々で捉えるのではなく、ブランドとブランドの関係の中
で捉えることが必要になった」(p.8)のである。そして過去の実績からして、そのようなアイテム間の関係
性を探る分析において最大の効力を発揮するのが iMap データである。次章ではそれを用いた分析モデル
について説明する。




2           研究方法
 iMap 分析モデルは、以下の 5 プロセスから成る。各プロセスについて「服飾ブランド」の個別ケース
にも言及しながら、節を設けて解説したい。

Method
1.   Internet Survey –to get a large amount of data
2.   Data Cleaning –to remove noises
3.   Creating Layers –to treat in equivalent degree level of cognition
4.   Clustering in each Layer –to reduce the number of items
5.   Drawing Media Map over Layers –to visualize for effective analysis


2-1      Internet Survey
 iMap 分析は WEB サイト iMap による膨大なデータ取得から始まる。今日では多くのネットワークリサ
ーチが行われているが、それらに占める iMap の独自性として際立つのが「認知データ」の取得である。
一見 iMap のデータは、POS(point-of-sale)データに代表される「購買履歴」データと同一視される傾向
にあるが、実はそこには決定的な差異が存在する。
 なぜなら、購買履歴では文化的事情や歴史的背景を読み取ることが困難だからである9。殊に「服飾ブラ
ンド」や「海外旅行」といったジャンルは、アイテムがコンビニ商品のようによく“買われる”わけでは
ない。このようなジャンルでは、購買履歴よりも“ブランド力”の重要な指標の一つである“認知度”を
押さえることの方が、潜在的需要を測る上で優れている。iMap は業界とコミュニティ間のメディアコミ
ュニケーションを扱う調査であり、その研究は文化研究であると同時に、実務にも活かされうる多目的な
ものである。


2-2      Data Cleaning
 WEB 社会調査をはじめ、データマイニングが適用されるような大規模データを扱うケースでは、いか
に入念にデータクリーニングを行うかが成功を大きく左右する10。iMap が抱える大きな問題点としては
「序列効果」と「見せかけの認知度」が従来から指摘されてきた。序列効果とはアイテム表示順に伴うバ
イアスを意味し、これはランキング考察やアソシエーション・ルールの適用、クラスタリング分析にとっ



9 ジャンル「マンガ」を例に取るなら、買ったマンガ雑誌の情報は得られるが、読まれたマンガの情報までは得られない。得られ
るとすれば単行本を買った時のみであり、それは新聞の 4 コマ漫画や、アニメ化によって“認知”されている作家を捨象すること
を意味している。また廃刉されたマンガなどに対するノスタルジーも付け入る隙がないのである。
10 データクリーニングに関しては次のような試算もある。「経験を積んだアプリケーション・コンサルタントは、開発期間の 50%

から 75%はそもそもニューラル・ネットワーク入力前のデータ操作に費やされていると推測している。であるから、強力なデータ
アクセス・ツール、データクレンジング、及び前処理操作法が効果的なデータマイニングにとって本質的である」(文献 4,p.85)


Kumasaka Lab.@Keio Univ. SFC
                                                                          3/12
株式会社インテージ協賛             第 3 回「SPSS Open House 研究奨励賞」投稿論文



ての弊害となる11。後者は、iMap のユーザ層の偏りに起因した問題である。層化抽出といったサンプリン
グを行わない iMap では、そのデータが全社会を反映しているわけではない。よって、ジェンダー論や世
代論、地域論に言及する際には慎重な姿勢が必要である12。
  「序列効果」については、アイテムに序列情報としての ORDER_ID ラベルを付与することで誤差の範
囲を特定し解決を図った13。具体的には、1 つのアイテムにしか答えていないユーザをまず削除し14、続い
て残りのユーザにおける回答アイテムの ORDER_ID 標準偏差を算出し、その分布を正規分布に見立てて
95%信頼区間から外れるユーザを削除するのである。       「見せかけの認知度」については、今回は服飾ブラ
ンドが対象ということで女性データに限定し、さらに総務省人口統計とも比率が近似する、20 歳から 35
歳まで(2003 年現在)の女性ユーザに絞り込んだ。    これまでの iMap 分析では男女全世代のデータを用いて
いたため、最終アウトプットに性差や世代差が明確に現れた。しかしそれらは自明なものである。分析モ
デルの汎用化を目指す本研究では、その安易な軸を放棄した。男性のデータ、35 歳を超える年配層や 20
歳未満の若年層のデータは一切入っていない。であるから、ヤングレディスに特化した分析ということに
なる。用いたデータは iMap の 2002 年 4 月現在のものであり、若干のタイムラグはあるものの、歴史的
背景も含め、現在の服飾ブランド事象を色濃く反映しているものと思われる。度重なるクリーニングを経
て分析に利用可能と判断されたユーザ数は 625 名である。


2-3   Creating Layers
 iMap 分析では、アイテムに優务をつけない。そのため選定作業を行わず、想定しうるすべてのアイテ
ムをデータベース化している15。だが“認知度”に基づく有名性に、一定の序列構造が存在しているのも
事実である。アソシエーション・ルールやクラスタリングを実行するにあたっては、認知度が同等なアイ
テム同士に階層区分することが望まれる。なぜなら、アイテムの認知度を平準化しない限り、有名なアイ
テム同士、無名なアイテム同士が卖純に結合してしまい、有益な知見を得る妨げとなるからである16。ま
た階層区分は、細分化の問題意識とも直結する。より上の層ほど「メインカルチャー」的傾向が強く、よ

11 iMap のアイテムは「ア行」から順に答えられる傾向が強く、途中で回答をやめるユーザがいることから、たとえばジャンル
「マンガ」の 1975~79 年生まれ男性ユーザのランキングでは、1 位「あだち充」、2 位「鳥山明」、3 位「秋本治」、4 位「藤子・F・
不二雄」、5 位「荒木飛呂彦」と、5 位中 3 人ものが「あ」で始まる。彼らはいずれも著名なマンガ家ではあるが、分析を進める上
で「あ」のバイアスに懐疑的にならずにはいられないだろう。アソシエーション・ルールを用いた「邦楽」の例では、「ウルフルズ」
と「宇多田ヒカル」、「浜崎あゆみ」と「浜田省吾」といった具合に、調査時に近隣に位置したアイテム同士の信頼度が異様に高く
なってしまう点が挙げられる。この視点は iMap に限定されるものではなく、商品の陳列順(Display Order)といったマーケティ
ング分野にも活かされるべきものである。
12 通常のサンプリング調査では、多段層化抽出法などを用いて、地域・世代・性別の偏りをなくすように努める。しかしそれを

行わない iMap では、ユーザ層は 1970 年生まれ前後の特定の世代に多く偏り、「ゲーム」は男性、「服飾ブランド」は女性のよ
うに、ジャンルによって性別にも偏重がある。
13 序列効果に関するクリーニング手順については、昨年本懸賞に投稿した論文や文献 2 の p.193 に詳しい。そこでは 50 音

に対応した SUBGENRE_ID を用いていたが、ORDER_ID はそれを 1 つずつのアイテムにまで対応させたもので、これによ
りさらに緻密なクリーニングが実現可能となった。
14 1 つのアイテムにしか回答していない場合、アソシエーション・ルール等、他のアイテムとの関連を調べる術がないわけであ

り当然の処方といえよう。多くのデータクリーニングでは“最小サポート枝刈り”が用いられるが、「重要なルールが失われる危険
もある」(文献 7,p.49) といった指摘もあり、本分析は微細な差異を重要視する研究であるため採用していない。
15 ただし iMap のデータベースが完璧なものではないという反省点はある。「マンガ」においては貸本漫画、「ゲーム」におい

てはネットワークゲームの不備があり、今回の「服飾ブランド」においても裏原宿系に代表されるストリートブランドは網羅できて
いない点に留意されたい。
16 この理由は集合論におけるベン図を想定すればわかりやすい。例として「マンガ」における「鳥山明」「いがらしゆみこ」「和

月伸宏」の 3 アイテムを挙げよう。読者層の近似性を考えれば、同一誌『週刉尐年ジャンプ』に連載経験をもつ「鳥山明」(『ドラ
ゴンボール』)と「和月伸宏」(『るろうに剣心』)の関係性が近いように思える。しかしマイニング結果では、「鳥山明」と「いがらし
ゆみこ」(『キャンディ・キャンディ』)の関係性が強くなる可能性が高い。その理由は集合の重なりにある。互いに大きなパイを持
つ「鳥山明」と「いがらしゆみこ」はユーザの重複率が大きくなるからである。つまりこの場合の解析結果は、文化的な近似性で
はなく、「有名なマンガ家同士」という関係性を示している。


Kumasaka Lab.@Keio Univ. SFC
                                                                  4/12
株式会社インテージ協賛            第 3 回「SPSS Open House 研究奨励賞」投稿論文



り下のレイヤーほど「サブカルチャー」的傾向が強いと判断できるからだ。後者を前者と比較することに
より「サブカルチャー化」のメカニズムが明らかとなるに違いない。
  このようなレイヤー分割を定量的に行う方法とし
ては、頂点に位置するアイテムの認知度(回答ユー
ザ数)を基に等分するのが望ましい。その認知度に
ついては(1)実数のほかに、   (2)対数17(3)平方根(4)面積
比率などを利用した手法が考えられる。服飾ブラン
ド分布の性質を踏まえ、    本稿では(3)を採用し(図 1)、
トップの「無印良品」(ユーザ数 352)の平方根を基
準値に 6 分割した。その結果全 478 アイテムが、各
レイヤーに L1=8、L2=32、L3=75、L4=93、L5=150、
L6=120 ずつ分配された。ただしデータクリーニン
グ後とはいえ下層アイテムはデータの不安定性が大
きいため、分析に用いるには注意が必要である。よ              図 1. アイテムの認知度平方根グラフ
って今回は、より確実性の高いレイヤー1 からレイ
ヤー4 までの、計 208 アイテムを扱うこととする。


2-4   Clustering in each Layer
 レイヤー分割により、    アイテムは認知度の近いもの同士に分類された。          だが、レイヤー3 が 75 アイテム、
レイヤー4 に至っては 93 アイテムと依然その数は多い。        したがってレイヤー内でさらにグループ化を進め
る必要がある。今度は“文化的”な類似性を加味しながら。当初アソシエーション・ルールを用いて信頼
度の高いアイテム同士を結びつけることに挑戦したが、あまりに多くの結合が生じてしまい、分割の閾値
設定に苦慮した18。  よってクラスター分析を用いることを考えたい。         望ましいクラスター数(K 個)が決まっ
ているわけではないため、    K-means ではなく、Kohonen ネットワークを用いるのが適合的だと判断した。
 しかし Kohonen ネットワークは“ブラックボックスである”とよく言われる19。そのプロセスはベール
に包まれ、導き出される結果もランダムシードの設定や隣接の値を変えるたびにまるで異なる様相を呈す。
だがその複雑性と柔軟性は、     まさに人間の思考に等しく、      実社会を見事に投影しているように思われる20。
問題はむしろ、1 回の試行によって最適解を導き出そうとする利用者側の傲慢な態度にある。そこで、行
われるクラスタリングのすべてが正しいという仮定の下に、次なる「アイテム間得点」に基づくクラスタ
リング手法を考案した。    利用したソフトウェアは SPSS Clementine6.5 であり、入力に用いたファイルは、
アイテムを行、ユーザを列に取り、回答された場合を 1、回答されなかった場合を 0 とした、フラグ値に



17「マンガ」や「ゲーム」で用いたこの方法は実数に次いで一般的であり、文献 7 においても「対数変換は項目の値をまんべん
なく分布させるのに効果的である」(p.242) と記されている。(2)以降が用いられる理由については、都市人口を想定すればわ
かりやすい。都市人口トップの東京を 900 万人として 6 分割したとき、大阪市でさえレイヤー4(150~300 万人)に含まれ、ほと
んどの都市がレイヤー6 に帰属してしまう。iMap ゲーム分析においても『ドラゴンクエスト』と『ファイナルファンタジー』の認知度
は群を抜いており、これら実数を基準に分割することは不適切である。
18 それは多くの研究者が直面する問題のようで、文献 7 においても「多くの場合、パターンが見つからないのが問題なのでは

なく、あまりにも多くのパターンがあるのが問題なのである」(p.89)と述べられている。
19 文献 4 には「ニューラル・ネットワークに対する長年の批判の一つは、それが「ブラックボックス」であり、解釈困難であり、そ

の振る舞いや、なぜその結論に到達するかを説明できないということであった」(p.130) という記述が、文献 7 には「ニューラル
ネットワークは、神秘的なブラックボックスと考えたほうがよい。私たちの意識の根元が神秘的なのと同様に、ニューラルネットワ
ークも内部の働きは理解しづらい」(p.212) といった記述がある。
20例としてクジラ、イワシ、ゾウ、ネズミの分類を考えてみたい。我々はある時は「クジラ、イワシ」(海生)と「ゾウ、ネズミ」(陸生)に
分類するだろうし、ある時は「クジラ、ゾウ」(大)と「イワシ、ネズミ」(小)、またある時は「クジラ、ゾウ、ネズミ」(哺乳類)と「イワシ」(魚
類)とに分類するだろう。これらの分類のどれかが間違っているのだろうか。否、それらはすべて正解といえる。


Kumasaka Lab.@Keio Univ. SFC
                                                                 5/12
株式会社インテージ協賛               第 3 回「SPSS Open House 研究奨励賞」投稿論文



よって構成される行列データである21。
                                                             表 1. 出力座標による得点
アイテム間得点化の手順          22

1.    出力マップに幅 10×長さ 10 の 100 セルを持たせ、Kohonen ネットワークを実行する。          3   3 4 3    3
      実行結果の全アイテムの座標を把握し、1 つ 1 つ、別アイテムとの位置関係を表 1 のよ                3   4 5 4    3
                                                                  4   5 10 5   4
      うに得点化する。表の中心が基点であり、表の範囲外のアイテムとの得点は 0 点である。
                                                                  3   4 5 4    3
2.    ランダムシードの値を変え、同様の得点化を 10 回繰り返す。                              3   3 4 3    3
3.    アイテムのペアごとに得られる 10 回分の得点の総和を「アイテム間得点」とする。

 以上のようにアイテム間得点を求めれば、初期値の違いに関わらず恒常的に近くにプロットされるアイ
テム同士の得点は高くなり、逆に偶然ある回だけ同一のセルにプロットされたようなアイテム同士の得点
はトータルとして低くなる。    この手法を用いれば、Kohonen ネットワークのクラスタリング結果がもつ説
明力は飛躍的に向上する。その後のクラスタリングについてもアイテム間得点を利用した様々な手法が考
えられよう。それぞれのアイテムにおいて最も得点の高いアイテムを次々に結び付けていく凝集法におけ
る卖一連結法のようなアプローチや23、全体における基準値以上の高得点を利用する上位水準などが挙げ
られる。
 iMap 服飾ブランド分析においては、レイヤー1 の 8 アイテムにはクラスタリングを用いなかった。レ
イヤー2 ではそれぞれについて最も高得点なアイテムを参照し、レイヤー3・4 では上位 2.5%水準を利用
した。レイヤー3・4 では、それでもクラスターに帰属しないアイテムが存在する。それらは個別に得点を
確認し、最適なクラスターに編入した。その過程における微妙な判別の線引きには、やはり当該ジャンル
の経験や知識を積んだ有識者の補助があることが望ましい。出来上がったクラスターを再度評価し、必要
に応じてアイテム間得点を参照しつつ再編成できればさらに理想的である。また、iMap 分析に関しては
先の ORDER_ID を利用した精度評価も重要な一助となる24。


2-5    Drawing Media Map over Layers
 各レイヤー内でのクラスタリングが完了した。下位レイヤーほどクラスター内アイテム数が多いわけで
あるから、OR 関係でアイテム回答履歴をクラスター回答履歴に置き換えれば、レイヤー内クラスタリン
グがアイテム数の縮減という目的と同時に、レイヤーを超えた回答ユーザ数の平準化をも達成しているこ
とに気づかされる。この時、データ的な階層問題はほぼ解消され、レイヤー1 からレイヤー4 までが“ス
ーパーフラット”となる。こうして、レイヤー1 から 4 までの全クラスターを同一俎上に載せた解析がは
じめて可能になるのである。
 クラスターを行、ユーザを列に取り、回答された場合を 1、回答されなかった場合を 0 としたフラグ値
によって構成される行列データを用意し、 Kohonen ネットワークの実行によって、 40×長さ 30、 1,200
                                         幅         計
                        25
セルで構成される自己組織化マップに写像する 。その結果を基に、出力座標を視覚化した。その際、ア

21 その形状は文献 6 にいう“疎行列”(p.166)であり、そのほとんどが 0 によって構成される。因子分析や主成分分析が適合的
でないことは容易に察せられよう。
22“100 セルで 10 回”が最適というわけではなく、表 1 の得点も恣意的である。当然より多く Kohonen ネットワークを実行した

方が得点は安定化するだろうし、場合によってはもっと好ましい得点指標が存在するかもしれない。あくまで 1 つのモデルとし
て提案している点に留意されたい。
23 「凝集法」については、文献 7 の pp.114-118 に詳しい。
24 たとえば、レイヤー3 において「JUNKO KOSHINO」と「JUNKO SHIMADA」は 100 点満点であり、「EDWIN」と

「EGOIST」も 63 点(上位水準1.5%以内)と高得点である。序列効果を軽減したとはいえ、これらはあまりにも配置が近隣すぎ、
クラスタリングの妥当性が危ぶまれる。よってそれぞれのアイテムの ORDER_ID の差分を基に補正する(一例としてその差の
レンジを 10 に離散化し、最も近い場合には 0.55、その次は 0.60…、もっとも遠い場合には 1.0 を乗算した)。すると前者は 10
点(上位 8.2%以内)、後者は 6.3 点(上位 16.8%以内)となった。それらも参考にしつつ、前者は同一クラスター、後者は別クラ
スターに帰属させることで分析班全体のコンセンサスを得た。
25 40×30 も恣意的な行列数であり、場合に応じて変更されたい。クラスタリング目的に利用される Kohonen ネットワークでは、




Kumasaka Lab.@Keio Univ. SFC
                                                                         6/12
株式会社インテージ協賛            第 3 回「SPSS Open House 研究奨励賞」投稿論文



イテム本来の認知度を考慮して、上位レイヤーのクラスターほど円周を大きく表現する。こうして完成し
た図を「メディアマップ」と名づける(図 2)。メディアマップから再度レイヤーをスライスすれば、それは
3 本目の軸を提供する。次章ではこの Z 軸によって各レイヤーを再度析出し、その内部の 2 次元構造を分
析しつつ、上下間の構造をも捉えることによって 3 次元の解釈を行った。メディアマップは、隣接の値を
変更して複数回描き、クラスター分散が大きく、かつ分析者の解釈が最も行いやすいマップを選ぶのが定
石であると思われる26。




      図 2. iMap「服飾ブランド」メディアマップ




3        研究成果

3-1    レイヤー1:誰もが認めるブランド
 レイヤー1 に位置する 8 ブランドは、抜群の知名度を誇る、
                              “ブランドの中のブランド”である。それだ
けに店舗も多く、すべてのブランドが百貨店で購入できるため、遠くまで足を延ばさずとも商品入手が可

複数のアイテムが同一座標にプロットされるのが通常である。しかし今回の iMap 服飾ブランドの全 62 クラスターはすべて別座
標の結果を得た。62 タイプの個性的なクラスターを抽出できたという意味においても多様性を反映しており、上記プロセスの妥
当性が立証されたといえよう。
26 因子分析や主成分分析における固有値計算がそうであるように、分散が大きいほど、元データ内のより多くの情報を説明し

ていることになる。また、導き出されるメディアマップのすべてが正解で、事象の一つの側面を表現しているのだとすると、分析
者の“思考”に最も似たマップこそが、当該分析者が“解釈”を行うのに最適のマップである。


Kumasaka Lab.@Keio Univ. SFC
                                                           7/12
株式会社インテージ協賛            第 3 回「SPSS Open House 研究奨励賞」投稿論文



能である。メディアマップを見ると(図 3)、4 つの領域が規定できよう。非常にシンプルで低価格な「無印
良品」の A 領域、比較的低価格でベーシックな普段着の「SAZABY」      「agnes b.」
                                                  「GAP」によって構成さ
れる B 領域、      「LOUIS VUITTON」
        「PRADA」              「GUCCI」という高級ブランドの C 領域、そしてベーシ
ックなおしゃれ着である「Calvin Klein」の D 領域の 4 つである。しかしながら、すべてのブランドに共
通した特徴がある。それは特に小物に関していえば、そのほとんどがシンプルかつベーシックで、保守的
であり、誰もが抵抗感なく身に付けられるという点である。アクがないため、取り立てて毛嫌いされるこ
とがない。さらには、どんな系統のファッションを好む人でもワードローブに違和感なく取り入れられる
ため、支持層も限りなく広がる。認知度を算出した際、そのトップが「無印良品」であることに違和感を
禁じえなかったが、このように誰からも嫌われない共有特性を踏まえれば、その最も典型といえる「無印
良品」が全服飾ブランドの認知度の頂点に位置することは、むしろ自然にさえ映る。




      図 3. iMap「服飾ブランド」メディアマップ(レイヤー1)




3-2   レイヤー2:確立された定番ブランド
 レイヤー2 に属するブランドのほとんどは、レイヤー1 と同様に保守的であり“百貨店モノ”という特
徴を継承している。メディアマップ(図 4)左の領域に入る「Levis」        「L.L.BEAN」はカジュアルなファッ
ションを好む人に支持されるベーシックな“百貨店モノ”であり、トラディショナルなニュアンスを秘め
           「RALPH LAUREN」
た「BURBERRYS」             「Comme ca du mode」などのブランドも同様である。また、
      「ツモリ・チサト」などはベーシックなテイストを持ちつつも、ブランドの持つ個性が固定ファ
「A.P.C」
ンに根強く支持されており、流行とは一線を隔したブランドであるといえよう。このように、左の領域に
属するクラスターは、より流行に左右されない普遍的なファッションを好む人が支持しているように思わ
れる。
 マップの中心に位置する「i・n・e」   「NICE CLAUP」「OZOC」  「VIVA YOU」     「UNTITLED」
                                                    「23 区」
はまさに百貨店を代表する服飾ブランドである。流行を押さえつつ、比較的低価格であるため安心感があ
り、着こなしやすさと買いやすさで定評がある。この領域には、目立ちたくはないが、ダサいと言われる


Kumasaka Lab.@Keio Univ. SFC
                                                              8/12
株式会社インテージ協賛            第 3 回「SPSS Open House 研究奨励賞」投稿論文



のは避けたいといった人たちが支持層として想定できる。さらに右に位置する「anna sui」            「JILL
STUART」は、他の領域と同様“百貨店モノ”であるが、保守的と言うよりは比較的“アヴァンギャルド”
な特徴を持ったブランドである。右上の「BEAMS」はレイヤー2 で唯一“百貨店モノ”ではないが、自
社で手がける商品はベーシックながら、積極的に新しいものを取り入れるアグレッシブな特徴を有するセ
レクトショップである。流行を作り出していながらも、とっつきにくさがないというのが、このブランド
をレイヤー2 に押し上げている要因だと思われる。
  このようにレイヤー2 では、基本的に保守的で“百貨店モノ”というレイヤー1 からの流れを汲みつつ
も、メディアマップの左から右に向かって、超保守、保守的流行、アヴァンギャルドという、ぼんやりと
した潮流が見える。それは、レイヤー3・4 における“コンサバティブ”vs“アヴァンギャルド”という対
立構造に繋がっていくが、        レイヤー2 ではまだ保守勢力が圧倒している。レイヤー1 に透かして見ると、   「無
印良品」と「UNIQLO」はどちらも低価格・シンプルという特徴を持っているし、隣接する「GAP」
「L.L.BEAN」   「Levis」はいずれもアメリカのカジュアルブランドという点で共通している。同様に
「Calvin Klein」と「COACH」には、キャリアウーマンに支持されるという共通点がある。     「MIU MIU」
は「PRADA」のセカンドラインであり、こちらも頷ける。          「LOUIS VUITTON」と「CHANEL」
「HERMES」は全てパリを拠点としたブランドと言う点で一致している。個別ブランドに注目しても、
レイヤー2 はレイヤー1 の流れを忠実に受け継いでいるのがわかるだろう。




        図 4. iMap「服飾ブランド」メディアマップ(レイヤー2)




3-3   レイヤー3:個性的ブランドの萌芽
 コンサバ・保守的なものばかりだったレイヤー1・2 と一転して、レイヤー3 になると“アヴァンギャル
ド”な、個性的なブランドが登場してくる。                         「Comme des Garcons」といった、強
                           「vivienne westwood」
烈な個性を持つ“モード系”ブランドがメディアマップ(図 5)右上に領域 f を持つ。対峙する左下部には
「キタムラ」「UNITED COLORS OF BENETTON」などのベーシックブランドが見える。              ベーシックブ
ランドからアヴァンギャルドまでの広い領域 b に位置するのは、上位レイヤーを席巻していた“百貨店モ


Kumasaka Lab.@Keio Univ. SFC
                                                                  9/12
株式会社インテージ協賛            第 3 回「SPSS Open House 研究奨励賞」投稿論文



ノ”のフォロワーであり、    完全にコンサバでもなく、  多尐のアヴァンギャルドな要素を取り入れることで、
流行と着やすさを両立させている。     無難であり、 手に入りやすいことから売れるブランドの代名詞である。
特に、「A/T」「AS KNOW AS」
                   「Fin」      「PINKY & DIANNE」
                       「MORGAN」               「PRIVATE LABEL」には、
この特徴がよく当てはまる。
 上位レイヤーとの繋がりでは、レイヤー1「無印良品」      、レイヤー2「UNIQLO」に代表される、      “非常に
シンプルで低価格”という特徴がレイヤー2 の「Levis」を介して「adidas」       「NIKE」「FILA」「NEW
BALANCE」などへと連なる。これら“スポーツ系”ブランドの新領域 a は、流行の一端として存在する
と同時に、ファッションに関心のない人でも持っているという両面性を位置的によく示し、より“カジュ
アル”な傾向は領域 e によって表現される。またレイヤー1 の「LOUIS VUITTON」からレイヤー2 の
「CHANEL」「FENDI」「HERMES」 を経てレイヤー3 の「CHRISTIAN DIOR」に至る “高級ブランド”
の領域 c も興味深い。レイヤー2 において領域 C の下方にあった「4℃」     「TIFFANY」は“クリスマスプ
レゼント”  の代表格として名高いブランドであるが、     それらと隣接するかのように     「OMEGA」  「ROLEX」
から成る高級時計クラスターが存在している点は見逃せない。これらは“男性を意識した”ブランドであ
り、そのことがさらに下部に存在する「GIORGIO ALMANI」   「ISSEY MIYAKE」「KENZO」といった、
“男性フォーマル”の新領域 d と見事に調和しているからである。




      図 5. iMap「服飾ブランド」メディアマップ(レイヤー3)



3-4    レイヤー4:個性の限りなき探求
 最後にレイヤー4 のメディアマップ(図 6)を見てみよう。レイヤー3 で芽生えてきたアヴァンギャルドな
傾向は、レイヤー4 においてより強化され、上位レイヤーでマップを大きく支配していた“百貨店モノ”
の領域 b は見る影もなくなる。ただし、この領域 b の左隅に残存するクラスターをレイヤー3 に透かして
見れば、たいへん興味深い知見が得られる。それは「MARY QUANT」や「キタムラ」に代表される、い


Kumasaka Lab.@Keio Univ. SFC
                                                            10/12
株式会社インテージ協賛            第 3 回「SPSS Open House 研究奨励賞」投稿論文



わゆる“お嬢様系”ブランドは、    “ミセス系”ブランドとして知られる「Michiko Koshino」や「YUKIKO
HANAI」と非常に高い親和性を示すという点である。すなわち“百貨店モノ”のブランドとは、                    “いい子”
の証であり、母親と娘との親密な親子関係が根底にあることを表している。また左最上部にも“ミセス系”
の新領域 g が存在するが、こちらは「adidas」といった“スポーツ系”との相性がよく、男の子を連れた
母親の姿が連想される。
 他方マップ右周辺に存在するブランドは、誰からも好かれているわけではないが、熱狂的な信奉者を獲
得している点で共通している。    “カジュアル”な領域 e と“アヴァンギャルド”な領域 f にまたがる部分に
は“ストリート系”が存在し、    「STUSSY」といったアイテムに、彼氏や男友達の影響が色濃く反映され
ている。さらに領域 f を右に進めば、    「BEAUTY BEAST」  「W&LT」クラスター、     「HELMUT LANG」
「YOHJI YAMAMOTO」クラスターなどの個性的なブランド群に遭遇する。これらがレイヤー3 に比し
てフォロワーゾーンにも近いのは、     “多尐フォロワーゾーンを飛び出している人”            たちと  “モード系ブラン
ドが好きな人”たち、両方の認知を合わせもつからであろう。マップ右下に目を移そう。                    「ALBA ROSA」
「JAYRO」       「LOVE BOAT」
       「EGOIST」          「ROXY」といった“109 系ブランド”が、レイヤー4 に来ては
じめて登場し、領域 h を形成する。ここで領域 h が“アヴァンギャルド”なブランド側に位置しているの
は見逃す事ができない重要なポイントである。コンサバとアヴァンギャルドとはすなわち“男性の目を意
識した”か“意識しない”か、と言い換えることもできる。その意味では、このブランドをクリックした
いわゆる「ギャル」たちは、どちらかといえば男性の目を意識していないのであり、                 “モード系”ブランド
にその存在は似通っているといえなくもない。       彼女たちのファッションにおけるこだわりは、               意外にも“モ
ード系”の人々の根底に流れるものと相通じることが、メディアマップから解釈できるのである。つまり
メディアマップを大局的に見れば、     レイヤー3 の                  「Comme des Garcons」
                            「vivienne westwood」                  といった、
強烈な個性を放つ“モード系”ブランドに影響されながら、それらを取り囲む形で、                  “アヴァンギャルド”
なブランドと“109 系”ブランドが名を連ねているのである。




        図 6. iMap「服飾ブランド」メディアマップ(レイヤー4)



Kumasaka Lab.@Keio Univ. SFC
                                                                 11/12
株式会社インテージ協賛               第 3 回「SPSS Open House 研究奨励賞」投稿論文




  結びにかえて
 ブランドが多様化し一元的スケール化が不可能になったことは、業界の不透明さを増幅させ、研究やビ
ジネスに携わる人々の頭を悩ませはしたが、女性自身は逆に、様々なシチュエーションに合わせ、多様な
ブランドを選択し、組み合わせる自由を手に入れたのである。だが、いくら事象が複雑さを増したとはい
え、ブランドが持つ記号性は、依然それを身に纏う人々の属性やライフスタイルと無関係ではない。それ
こそが服飾ブランドがもつ貴重な価値であるとともに、その把握を通した社会・文化分析が可能であるこ
とを教えてくれる。そして、今回のクラスタリングやメディアマップによる視覚化という一連の作業を通
  社会調査やデータマイニングの適用が、
して、                    そのアプローチとしていかに有用であるかが確かめられた。
 上記のような分析は、データマイニングに精通しているだけでも、服飾ブランドに詳しいだけでも達成
されるものではない。我々はそのどちら側に立ってもまだまだ未熟であるが、多くの調査協力者による回
答と、データマイニングという文明の利器の力を借り、互いに不足する部分を補いながら、一歩一歩分析
を進め、ここまで辿り着いた。小野田は解釈班を納得させるデータ加工に心を砕き、中野・伊藤・和田は
恣意性に陥ることなく、常にデータと向き合うことを忘れなかった。その結果、汎用的な分析モデルの開
発と、ブランド同士の新たな関係性発見を手にしたのである。事象は日々変化している。その速度に置き
去りにされぬように今後とも分析を進めていきたい。また、  「服飾ブランド」と関連の深い、「ファッショ
ン雑誌」や「化粧品」との関連性を、iMap データを用いながら明らかにしていきたいと考えている。




主要参考文献

1. SPSS、杉田善弘・櫻井聡(訳)『マーケティングのためのデータマイニング入門』東洋経済新報社、2001
2. 小野田哲弥・荒井大樹・熊坂賢次「タイトル認知情報に基づくテレビゲーム事象の実証的解釈」『2003 テレビゲーム産業白書』メディアクリエ
イト、2003、p.187~p.212
3. 坂井直樹・WATER STUDIO & EP-engine『EMOTIONAL PROGRAM BIBLE』英治出版、2002
4. ジョゼフ・P・ビーガス(Joseph P. Bigus)、社会調査研究所・日本 IBM(訳)『ニューラルネットワークによるデータマイニング』日経 BP、1997
5. 徳高平蔵・岸田悟・藤村喜久郎『自己組織化マップの応用』海文堂、1997
6. 豊田秀樹『金鉱を掘り当てる統計学』講談社、2001
7. マイケル・J・A・ベリー(Michael J. A. Berry)/ゴードン・リノフ(Gordon Linoff)、SAS インスティチュート ジャパン・江原淳・佐藤栄作(訳)『デー
タマイニング手法』海文堂、1999




分析協力:伊藤貴一(政策・メディア研究科修士課程)/永野幸・加藤千恵(環境情報学部)




Kumasaka Lab.@Keio Univ. SFC
                                                                                       12/12

				
DOCUMENT INFO
Shared By:
Categories:
Stats:
views:48
posted:5/12/2010
language:Japanese
pages:12