An Impact Analysis on Introducing Domestic Tradable Permits for

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An Impact Analysis on Introducing Domestic Tradable Permits for Powered By Docstoc
					                   排出権取引による水質汚濁負荷削減の影響分析
                       -ベンチマーク&クレジット方式の併用-
An Impact Analysis on Introducing Domestic Tradable Permits for Water Pollution Control
                                                                 ○奥田隆明 * ・赤根幸仁 **
                                                       Takaaki OKUDA and Yukihito AKANE


1.はじめに
 わが国の水環境問題は20世紀の工業化・都市化を背景にして次第に深刻化し,近年では内湾や内海,
湖沼等の閉鎖性水域における水質汚染が大きな社会問題となっている.中でも後背地に大きな汚濁源
を有する東京湾,大阪湾,伊勢湾等では流入する汚濁負荷総量を規制する「総量規制」が導入され,
その水質改善が図られてきた.しかし,こうした取組みにも係わらず,これらの閉鎖性水域では依然
として環境基準が達成されていないのが現状である.
 こうした背景として,総量規制の対象となっている指定地域内事業場からの水質汚濁負荷は削減さ
れているものの,総量規制の対象にならない部門,例えば,農業部門等では,有効な対策が実施され
ていないことが指摘されている.つまり,農業部門等は汚濁負荷源が面的に分布しており,単位面積
当たりの汚濁負荷は小さいものの,その排出総量は合計するとかなり大きく,閉鎖性水域の水質改善
を図る上で新たな対策が必要になって来ている.
 こうした状況の中で,閉鎖性水域における汚濁負荷削減を社会的最小費用で実現するための社会技
術の一つとして,排出権取引を実施することが考えられる.後述するように,閉鎖性水域における排
出権取引については,国土交通省を中心として下水道部門への導入が検討されてきた.しかし,下水
道整備は「流域別下水道整備計画」を作成した上で,多くの国庫補助により事業が実施されるため,
地方自治体間で排出権取引を実施しようとするインセンティブが働きにくい.そのため,むしろ総量
規制によって排出規制を受けている指定地域内事業場を対象にしたキャップ&トレード方式による排
出権取引を導入し,あわせて農業部門のような,総量規制の対象になっていない主体にはベンチマー
ク&クレジット方式の排出権取引を実施することが有効であると考えられる.
 そこで,本研究では,こうした閉鎖性水域における水質汚濁負荷削減を目的とした排出権取引の影
響を事前に評価するための計量モデルを開発し,これを用いてその影響を計量分析することを目的と
する.以下,2.では,水質汚濁負荷削減のための排出権取引について従来の関連研究を整理する.ま
た,その後、本研究で分析する排出権取引の内容についてさらに詳しく説明し,影響分析の視点につ
いて整理する.そして,こうした排出権取引の影響評価を行うための計量モデルについて説明し,伊
勢湾流域圏を対象にしてこのモデルを作成した結果について述べる.さらに,このモデルを用いて,
伊勢湾流域圏で排出権取引を導入した場合,どのような影響が発生するのかについて計量分析を行っ


   *    名古屋大学エコトピア科学研究所 EcoTopia Science Institute, Nagoya University
        〒464-8603 名古屋市千種区不老町 F3-4(670) TEL:052-789-4654 E-mail: okuda@nagoya-u.jp
   **   名古屋市上下水道局 Waterworks & Sewerage Bureau, City of Nagoya
        〒460-8508 名古屋市中区三の丸 3-1-1 TEL:052-972-3608
た結果について報告する.なお,これらの内容については紙面の都合により当日に報告する.


2. 従来の関連研究
(1) 水質汚濁負荷削減のための排出権取引
 水質汚濁負荷削減のための排出権取引についてはこれまでにも多くの研究が行われ,社会的最
小費用で排出削減目標を達成できること,課徴金等に比べると受容性が高いこと,取引主体が増
えるとモニタリング費用が増加すること等が指摘されてきている.また,アメリカをはじめとす
る幾つかの国ではこの排出権取引を実際に行った事例も存在する.例えば,ノースカロライナ州
タール・パムリコ川流域では,ノースカロライナ州の環境局が窒素及びリンの総量規制を行い,
流域内の下水処理場や工場が「タール・パムリコ川流域協会」の会員となって,会員間での排出
権取引を実施している.また,この「タール・パムリコ川流域協会」は流域内の農家が窒素・リ
ンの排出削減を行うことを積極的に支援しており,会員は農業部門における窒素・リンの排出削
減分をクレジットとして購入し,これによって排出削減義務を果たすことができる.こうした排
出権取引によってタール・パムリコ川流域への窒素・リンの排出量は 28%削減されたことが報告
されている.
(2) 日本における排出権取引
 日本でもこうした排出権取引の可能性について幾つかの研究が行われてきている.例えば,国
土交通省は下水道部門における排出権取引の可能性について具体的な検討を行っている.また,
石田らは下水道部門を対象にした排出権取引を首都圏で実施した場合,どの程度の効果が期待で
きるのかについてボトムアップ型のモデルを用いて計量分析を行っている.さらに,これらの研
究に基づき国土交通省は 2005 年に下水道法を改正し,地方自治体間での排出権取引を可能にした.
ところが,日本の下水道整備は「流域別下水道整備計画」を作成し,多くの国庫補助によってそ
の整備が行われる.そのため,本来,公共事業の予算配分の段階において,効率的な下水道整備
について検討が行われることが当然であり,地方自治体には排出権取引によって水質汚濁負荷を
削減しようとするインセンティブが働かない.その結果,これまで日本では地方自治体間でこう
した排出権取引を実施したという事例は見られない.
(3) 本研究の位置づけ
 他方で,既に 1.でも説明した通り,日本では,環境省が中心となって総量規制を実施してきた.
この総量規制では,指定地域内事業場に対して一定の規制がかけられてきた.また,この総量規
制の対象とならない農業部門等でも,かなり多くの水質汚濁負荷が排出されており,これらの部
門における排出削減が大きな課題になっている.そのため,本研究では,現在,総量規制の対象
となっている指定地域内事業場を対象にしたキャップ&トレード方式による排出権取引を実施し,
あわせて,農業部門をはじめ,総量規制の対象になっていない主体には,ベンチマーク&クレジ
ット方式による排出権取引を実施する方策を提案する.そして,これらの制度導入がその対象地
域に如何なる影響を与えるのかについて事前に評価することを試みる.