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学位論文題目

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					         学位論文題目




性行動を規定する性態度の形成過程およびその影響要因の解明

-中国北京市の若者を対象としたアンケート調査に基づいて-




        学位申請者(論文提出者)

          曹   陽 ( 01D5203 )




                  1
                         論文内容の要旨

  若者の望ましくない妊娠や性感染症の予防は、世界保健の最大の課題であっ
て、世界各国の学校性教育においても、緊急度の高い課題であると認識されて
     若
いる。 者の性と生殖の健康をより良い方向に導くために学校で行える、 た、                           ま
若者の学習ニーズや関心に応じた、適時の、適度な教育プログラムとは何かに
ついて、具体性のある有効な提案をすることは、かなり難しい課題である。
  そこで、本論文では、この学校性教育領域の研究課題の達成に向けて、思春
期学的アプローチと社会心理学的アプローチとにおける理論と方法論を統合的
に活用して調査的研究を行い、得られたアンケートデータに基づいて因果構造
モデルの構築とその検証が試みられた。具体的には、生物的・先天的・遺伝的
要因(以後、生物的要因と略称する)と社会的・後天的・環境的要因(以後、
社会的要因と略称する)の相互作用によって規定される関与(関心および情報
接触)が、どのように態度形成に関わり、さらにそれが行動に対してどのよう
な影響を及ぼすのかという、関与、態度、行動の間の影響関係を実証的に究明
することを目指した。
  このことを学校性教育への還元という視点から言い換えると、方向性を見定
                                         教
め か ね て い る 中 国 の 性 教 育 の 現 状 を 踏 ま え て 、 育 の 受 け 手 で あ る 10 代 の 若 者
に焦点を当て、彼らの性意識や性行動に適合した「有効性のある学校性教育」
のあり方を探ることを目的とした。
  そのために、中国の首都―北京市の若者を対象に調査を実施し、彼らの性行
動を規定する性態度の形成および性行動への影響の過程とそれらに影響を及ぼ
す要因の解明を、本論文の目的とする。

 本論文は、以上の目的を達成するために行った一連の研究の知見に基づき、
以下のような内容で構成されている。

 第Ⅰ部     問題と目的

         「                                           、
  1 章 は 、 1-1 節 学 校 性 教 育 に 関 す る 国 際 的 な 取 り 決 め 」 「 1-2 節 激 動 す
                                             、
る 世 界 に お い て 学 校 性 教 育 に 何 が 起 き て い る の か 」 「 1-3 節 中 国 に お け る 学
                             、
校 性 教 育 の 発 展 史 と 今 後 の 展 望 」 「 1-4 節 学 校 性 教 育 に 関 す る 研 究 へ の 取 り
組み」の4節で構成されている。この章では、国際的視点から学校性教育の最
新動向を紹介しながら、中国の性教育政策が抱えている問題点と課題を提起し
ている。
         「                                     、
  2 章 は 、 2-1 節 思 春 期 の 定 義 と 三 つ の 段 階 区 分 」 「 2-2 節 思 春 期 に お け
る 性 の 発 達 段 階 説 」の 2 節 で 構 成 さ れ て い る 。こ の 章 で は 、特 に 10 代 の 若 者 を
対象にして、学校性教育の思春期学的アプローチに基づき行われた理論的研究
と実証的研究を紹介しながら、従来の研究知見に存在する問題点を指摘してい
る。
         「                          、
  3 章 は 、 3-1 節 態 度 の 定 義 と 性 質 」 「 3-2 先 行 研 究 に お け る 関 与 と 態 度


                                 2
と行動の関係」の2節で構成されている。この章では、社会心理学的アプロー
チに基づき行われた態度研究を概観して、関与と態度と行動の間の関係に関す
る知見を理論的に整理している。
 4章では、従来の思春期学的研究と社会心理学的研究による知見と問題点を
踏まえて、本論文の研究目的を確定している。
 5章では、4章で確定した研究目的に沿って計画し実施した7つの調査的研
究が本論文をいかに構成しているのかを、すなわち、調査計画と論文構成の対
応を明解な図(別添資料)によって詳細に説明している。

 第Ⅱ部     モデル構築のための実証的検討

  6章の研究1では、生物的要因の影響を基盤とする性の発達段階説(日本性
教 育 協 会 , 1997) が 、 性 的 関 心 ( 1 項 目 ) の 発 達 と そ れ を 規 定 す る 要 因 に 関 し
て十分な検討を行っていないため、一層厳密な条件操作のもとでデータ収集を
行い、性の発達段階説を検討した。具体的には、日中間や男女間の差異をt検
定で検討した結果、恋愛に対する関心(1項目)に比べて、性交に対する関心
(1項目)の方が、生物的要因を基盤とする性の発達段階説に沿わないことが
明瞭となった。換言すれば、恋愛に対する関心に比べて、性交に対する関心の
方が、生物的要因よりも社会的要因による影響を一層強く受けていることが推
察された。そこで、このことを仮説に設定し、その検証のために、生物的要因
と社会的要因を取り込んだ研究2が行われた。
  6 章 の 研 究 2 で は 、 恋 愛 に 対 す る 関 心 (1 項 目 )と 性 交 に 対 す る 関 心 (1 項 目 )
を従属変数にして、学年(生物的要因による影響を測定するための説明変数)
と地域(社会的要因による影響を測定するための説明変数)と性別(性には生
物的な性と社会的な性という二重の意味があるため、本論文では、生物的要因
と社会的要因の双方による影響を測定するための説明変数)を独立変数にした
3要因の分散分析を行った。その結果、恋愛に対する関心の発達よりも、性交
行為に対する関心の発達のほうが、生物的要因よりも社会的要因に一層強く影
響を受けていることが検証された。
  6 章 の 研 究 3 で は 、 研 究 2 で 取 り 上 げ た 恋 愛 に 対 す る 関 心 (1 項 目 )と 性 交 に
対 す る 関 心 (1 項 目 )の 2 側 面 を 含 む 『 性 へ の 関 心 尺 度 』 を 独 自 に 構 成 し て 、 そ
の 尺 度 構 造 と そ の 発 達 的 変 化 を SPSSの 探 索 的 因 子 分 析 に よ っ て 明 ら か に し よ う
とした。その結果、生物的要因と社会的要因の双方の影響によって、性への関
心の構造が、未分化な状態から分化・構造化した状態に発達することが明らか
となった。また、後の研究4と研究6で取り上げる「性交行為への関心」 3                               (
項目)という「性への関心」の下位概念が、厳密な分析手続きを通じて、抽出
されることを示した。
  6 章 の 研 究 4 で は 、 髙 木 ( 1970; 1973; 1975a; 1975b) が 提 案 し た 操 作 的 な
関与概念、特に、関与の要素である関心と情報接触に着目した。そこで、研究
3の結果に基づく「性交行為への関心」 3項目)を用いて、関心とポルノ情 (
報・非ポルノ情報との接触の間の関係を検討した。まず、 性交行為への関心」               「
を独立変数に、ポルノ情報・非ポルノ情報との接触に関する項目を従属変数に


                                  3
して、                                      し      モ
     Amos に よ る パ ス 分 析 モ デ ル を 構 築 し た 。 か し 、 デ ル の 適 合 度 が 悪 く 、
各指標が採択の水準に達しなかった。そこで、逆に、ポルノ情報・非ポルノ情
                                  「
報との接触に関する項目を独立変数に、性交行為への関心」 従属変数にして、                 を
Amos に よ る パ ス 分 析 モ デ ル を 構 築 し た 。そ の 結 果 、モ デ ル の 適 合 度 が 良 く 、各
指標が採択の水準に達した。この結果を踏まえて、今後の研究では、ポルノ情
                                    「
報 や 非 ポ ル ノ 情 報 と の 接 触 を 独 立 変 数 に 、 性 交 行 為 へ の 関 心 」を 従 属 変 数 と し
て扱うべきだと結論づけた。
  以上の諸研究は、アンケート調査によって操作的な関与概念が測定可能であ
                       「
る こ と を 明 ら か に し た が 、 関 与 → 態 度 → 行 動 」と い う 因 果 関 係 モ デ ル に お け る
関与の位置づけは未だ明確にされていない。そこで、以下の研究5から研究7
までの3つの研究によってその解明が試みられた。
  7 章 の 研 究 5 で は 、 SPSS に よ る 探 索 的 因 子 分 析 法 と Amos に よ る 検 証 的 因 子
                                                    (
分 析 法 を 併 用 し て 、独 自 に 作 成 し た「 性 に 対 す る 態 度 尺 度 」 中 国 版 )の 構 造 分
                    「
析 を 行 っ た 。そ の 結 果 、 深 い 愛 情 関 係 の あ る 二 人 の 性 行 為 は 究 極 の 人 間 交 流 で
     、
     「
ある」 すばらしい性行為をするために互いに十分知り合わなければならない」                                  、
「性 行 為 は 二 者 間 の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン の 最 も 親 密 な 形 態 で あ る 」 な ど の 項 目
                                       、
の 負 荷 量 が 大 き い 「心 身 交 流 志 向 」( 6 項 目 ) 「婚 前 の 性 行 為 は 受 け 入 れ ら れ な
い 」、 「性 行 為 は 自 分 、 相 手 、 家 族 に 関 わ る 以 外 に 、 将 来 に も 関 わ る 重 大 な 問 題
                                                (        、
で あ る 」な ど の 項 目 の 負 荷 量 が 大 き い 「 規 範 思 慮 志 向 」 3 項 目 ) 「同 時 進 行 的
に 複 数 の 人 と 性 的 関 係 を 持 っ て も か ま わ な い 」、 「い ろ い ろ な 人 と 性 的 関 係 を 持
                                                 (
つ べ き だ 」な ど の 項 目 の 負 荷 量 が 大 き い 「快 感 追 求 志 向 」 4 項 目 )の 三 つ の 下 位
概念を抽出した。そして、この後の研究のために、各下位概念を代表する項目
を用いて『性に対する態度尺度』 中国版)を構成した。   (
  8章の研究6では、関与の因果関係モデルにおける位置づけを明確にするた
めに、関与が態度を規定するプロセスを検討した。具体的には、研究5で構成
                          (
した『性に対する態度尺度』 中国版)を使って、研究4の結果に基づいて、
     「
関与( ポルノ情報や非ポルノ情報との接触」が「性交行為への関心」を規定)
が 性 に 対 す る 態 度 を 規 定 す る 過 程 に つ い て 、Amos に よ る パ ス 分 析 モ デ ル を 構 築
してその検証を試みた。その結果、性的経験の有無や男女の違いにもかかわら
         「
ず 、関 与( ポ ル ノ 情 報 や 非 ポ ル ノ 情 報 と の 接 触 」が「 性 交 行 為 へ の 関 心 」を 規
                     「
定)が性に対する態度( 心身交流志向」と「快感追求志向」 を規定するとい                  )
う頑健性の高い影響過程が検証された。また、性的経験がない者に比べて、性
的経験のある者においては、一層複雑な影響関係の存在が明確となった。つま
                                                  「
り 、パ ス 係 数 の 強 弱 お よ び 有 意 水 準 か ら 判 断 し て 、関 与( ポ ル ノ 情 報 や 非 ポ ル
ノ 情 報 と の 接 触 」が「 性 交 行 為 へ の 関 心 」を 規 定 す る )が 性 に 対 す る 態 度( 心  「
身 交 流 志 向 」と「 快 感 追 求 志 向 」  )を 一 層 強 く 規 定 す る こ と の ほ か に 、関 与 の 要
素であるポルノ情報接触と非ポルノ情報接触とが弱い相関を持ちながら、それ
                   「
ぞれ性に対する態度( 心身交流志向」と「快感追求志向」 に対して弱い影響                )
力をもつという直接的効果も認められた。
  9章の研 究7では、 若者の性行動の活発化(性交相手数の増加)に及ぼす性
に対する態度の影響過程を、態度と行動の一貫性という社会心理学の枠組みか
ら検討した。具体的には、 研究5で構成した『性に対する態度尺度』 中国版)                        (


                                  4
を 使 っ て 、 中 国 北 京 市 の 高 校 生 を 対 象 に し て 、彼 ら の 性 に 対 す る 態 度 が い か に
し て 性 行 動 の 活 発 化 ( 性 交 相 手 数 の 増 加 ) を 規 定 す る か を 、 Amosに よ る 共 分 散
                                  『
構 造 分 析 に よ っ て 検 討 し た 。そ の 結 果 、 性 に 対 す る 態 度 』(中 国 版 )を 構 成 す る
               、               、
「心身交流志向」「快感追求志向」「規範思慮志向」の3つの下位概念のうち
                               (
で 、性 交 経 験 者 の「 性 行 動 の 活 発 化 」 性 交 相 手 数 の 増 加 )を 規 定 す る の は 、 快「
                                                          「
感 追 求 志 向 」の み で あ っ た 。つ ま り 、男 子 に し て も 女 子 に し て も 、 快 感 追 求 志
向」の考えが強い者ほど、性行動が活発であることが明らかとなった。


                                       〔内的変数〕

       (独立変数)                   (媒介変数1)                 (媒介変数2)      (従属変数)
          ▼                        ▼                       ▼            ▼


                                  関与

     生物的・先天的・             (
 調
 査    遺伝的要因               異                 (
       (学年、性別)            性
 変                                          非
                          ・
 数                                          ポ
                          恋
                            性              情ル
 の                        愛
 構                        ・
                            的              報ノ               態度        行動
                            関              接/          (性に対する態度)   (性行動の活発化)
 造                        性
                            心              触ポ
 的                        交
                                            ル
 枠                        を
                                            ノ
 組   社会的・後天的・             含                 )
                          む
 み    環境的要因               )
      (国別、地域、性別)




                                                    個人内過程




     6章(研究1) 思春期における性の発達段階説に関する検討


     6章(研究2) 性的関心を促進する要因の探索的検討

 各
 研   6章(研究3) 性的関心の構造化を促進する要因の検討
 究
 の
 位
 置          6章(研究4) 性交行為への関心の促進過程
 づ
 け
                                                7章(研究5)性に対する態度の測定尺度の構成


                              8章(研究6)性に対する態度の形成を促進する過程の検討


                                                     9章(研究7)性行動を促進する性に対する態度の検討




                                制御が困難な個人外過程要因

                                           〔外的変数〕



     図1 本論文における調査変数の構造的枠組みと各研究の位置づけ


                                       5
第Ⅲ部    総括と今後の展望

  10 章 で は 、研 究 結 果 を 総 括 し た う え で 、本 論 文 で 検 討 し た 若 者 の 性 行 動 を 促
進する因果関係モデルとそこにおける関与の位置づけおよびその測定方法につ
いて、今後さらに積み重ねねばならない研究のための枠組みを提案している。
  本論文を構成する研究1から研究7までの実証的研究においては、まず、筆
者が独自に作成した測定尺度(項目)を慎重に検討したうえで、つぎに、理論
的概念に基づいて影響過程モデルを構築し、さらに、アンケートデータによっ
てその妥当性の検証を試みた。その結果、生物的要因と社会的要因とが働き合
                 (
って規定される関与「ポルノ情報源との接触の多様さ」「性交行為への関心」              →                   )
                  (
が「 性 に 対 す る 態 度 」 快 感 追 求 志 向 )を 規 定 し 、さ ら に 、そ の 態 度 が「 性 行 動
                           」
の活発化( 性交相手数の増加 ) を促進するという性行動の促進過程モデルの
妥当性が検証された。
  このモデルでは、態度形成を中心に据えて、関与→態度→行動の関係を検討
しようとした。そもそも態度は生得的なものではなく、後天的に学習を通じて
形成され、行動に影響を与えるという考え方が一貫して支持されてきた。しか
し、既存の態度研究を見ると、行動に影響を与える態度がいかなる経験を通じ
て後天的に形成されるのかという疑問に正面から取り組むことは少なかった。
換言すれば、今まで行われてきた数々の実証的研究では、態度の概念化、態度
の形成とその規定因、態度と行動の関係を一連の文脈で捉える研究姿勢の重要
があまり認識されてこなかったように思われる。
  本論文では、態度形成を中心に位置づけて、その文脈における態度の操作的
定義、態度形成とその規定因、態度と行動の関係を一本線につなげて検討する
ことに焦点を当てた。報告した一連の実証的研究の結果は、態度形成を中心に
据えて取り組む研究姿勢が、極めて重要、かつ、必要であることを立証したと
いえる。
  11 章 で は 、本 論 文 で 提 案 し た 性 行 動 を 規 定 す る 性 態 度 の 形 成 過 程 お よ び そ の
影響要因に関する因果関係モデルに関係する理論と方法論(調査手法および分
析 手 法 )の 体 系 に 向 け て 、10 代 の 若 者 に 性 に 関 す る 調 査 的 研 究 を 積 み 重 ね る 努
力の必要性を強調するとともに、本論文で提案されたモデルの応用のための学
際的研究を展望している。
  学位申請者は、すでに、政策学と計算機科学との融合による新しい学問領域
の開拓を目指し、グリッドコンピューティングによる政策支援システムとして
政策の分析や決定に必要な多種・大量のデータを短時間で安価に処理できるシ
ステムを開発している関西大学政策グリッドコンピューティング実験センター
で、性行動の促進過程モデルを取り込んだ社会シミュレーションシステムの開
発に関わる研究に着手している。この先端的研究は、近い将来、中国における
新たな性教育政策の立案を支援するためのみならず、国際保健事業を支援する
ためにも、大いに寄与・貢献できるものと考えられる。




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