5 Cardio Renal Anemia Syndrome by HC120424162656

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									               全身性疾患と腎障害
                              腎臓内分泌内科      和田   健彦


腎障害を来すものは、原発性腎疾患だけではない。様々な全身性疾患が腎障
害を引き起こし、また相互に関連しながら進展していく。
以下に代表的な全身性疾患による腎障害について概説する。


【高血圧性腎症】
藤田教授講義参照


【代謝性疾患】

[1]糖尿病性腎症 diabetic nephropathy
概念:糖尿病発症後に、糖尿病以外に他に誘因がなく、腎障害を来たし、最
終的には腎機能の廃絶に至るもの。日本透析医学会の集計では、1998 年以
来慢性糸球体腎炎を抜いて透析導入原因疾患の第1位となっている。


病因:発症メカニズムの上流にあるのは、高血糖である。その下流には、
(1)高血糖に伴う糸球体の過剰濾過
(2)高血糖に伴う Advanced Glycation End-products (AGE) の蓄積や酸
   化ストレスの亢進
(3)高血糖に伴うポリオール代謝の亢進と PKC の活性化
などが考えられている。ただし、腎症を発症する糖尿病患者は 15 %〜30 %
といわれており、必ずしも血糖との相関も明確でないことから、 その他の要
因の存在が疑われている。


臨床症状:浮腫、高血圧、溢水を伴うことが多い。
当初は微量アルブミン尿を呈し、後に顕性蛋白尿、ネフローゼとなる(経過
参照)。
通常アルブミン尿                < 30 mg/gCr or < 30 mg/day
微量アルブミン尿                30-300 mg/gCr or 30-300 mg/day
顕性蛋白尿                   > 300 mg/gCr or > 300 mg/day


経過自体は連続性であるが、厚生労働省研究班が病期分類を発表している。
病期          蛋白尿         糸球体濾過量            病理学的特徴
第1期         正常          正常、時に高値           びまん性病変:なし
(腎症前期)                                    ~軽度
第2期         微量アルブミ 正常、時に高値                びまん性病変:なし
(早期腎症)      ン尿                            ~軽度
                                          結節性病変:時に存
                                          在
第 3 期A      持続性蛋白尿      ほぼ正常              びまん性病変:中等
( 顕 性 腎 症 前 (1<g/day)   (Ccr>60ml/min)    度
期)                                        結節性病変:多くは
                                          存在
第 3 期B      持続性蛋白尿      低下                びまん性病変:高度
( 顕 性 腎 症 後 (1>g/day)   (Ccr<60ml/min)    結節性病変:多くは
期)                                        存在
第4期         持続性蛋白尿      著明低下             荒廃糸球体
(腎不全期)                  ( 血 清 Cr>2mg/dl
                        or Ccr<30ml/min)
第5期
(透析療法)
尿沈渣は所見に乏しいが、顕微鏡的血尿は 30 % の患者にみられる。
典型的には顕性蛋白尿が出現している患者には既に糖尿病性網膜症が存在
する。
注:糖尿病性網膜症は2型糖尿病の患者では腎症を発症しても 30 %にみら
れず、  網膜症がないことが糖尿病性腎症以外の疾患の並存を疑う根拠にはな
っても、糖尿病性腎症を否定する根拠にはならない。2007 年の National
Kidney Foundation のガイドラインでは、「2型糖尿病患者で網膜症がある
顕性蛋白尿は糖尿病性腎症を、網膜症がない微量アルブミン尿では非糖尿病
性腎疾患を考えるが、それ以外の場合は網膜症の存在は診断的価値に乏し
い」としている。
IV 型尿細管アシドーシスを合併することがある(→高カリウム血症の合併)。
進行すると自律神経障害により起立性低血圧も合併することがある。
腎不全の進行に伴って、インスリンの代謝・クリアランスが低下し、通常血
糖コントロールは改善する。
末期に至るまで、腎臓の大きさが保たれることが特徴的である。


組織所見:糸球体病変には3つの基本形がある。
(1)結節性病変:結節性病変(Kimmelstiel-Wilson 結節)は特徴的である
   が、糖尿病性腎症患者の20%程度にみられるに過ぎない。
(2)びまん性病変:基本的な変化は、メサンギウム基質の増加と、電顕所
   見による毛細管基底膜の肥厚である。
(3)滲出性病変:上述の2病変と並存して認められ、fibrin cap(係蹄毛
   細管基底膜内側の均一な物質の沈着)と capsular drop(ボウマン嚢
   内側の均一な物質の沈着)がある。
血管病変も重要であり、           初期における糸球体輸入および輸出血管壁の内膜肥
厚(hyaline arteriolosclerosis)が特徴的である。


診断:通常は臨床的に特徴的な所見を組み合わせて診断することが多く、明
らかに糖尿病性腎症と考えられる場合には腎生検は行わないことが多い。

治療:
(1)食事療法:減塩食、カロリー制限(30 – 35 kcal/kg/day)、低蛋白食?
(2)血糖コントロール:厳格な血糖コントロールは、糖尿病性腎症のリス
クを減少させる(UKPDS, DCCT, Kumamoto Study)[1-3]。膵臓移植で糖尿
病を治療すると、腎病変が消失することも報告されている[4]。ビグアナイ
ド系薬剤は、腎機能が低下した患者では、       乳酸アシドーシスを起こすため禁
忌であることに注意。
(3)血圧コントロール:日本高血圧学会のガイドライン(2009 年度版)
では、糖尿病患者の目標値は 130/80 mmHg、但し 1g/day 以上の蛋白尿を
伴う患者では 125/75 mmHg 以下。
降圧剤の選択:レニン・アンギオテンシン系阻害薬(ACEI あるいは ARB)
を基本とする。AIPRI では、糖尿病患者に対する ACEI の有効性が示され
たが、コントロール群に比べ ACEI 群の血圧コントロールが有意に良好で
あったため、      効果が薬剤特異的なものか、           あるいは血圧を下げることによる
ものなのか、判定ができなかった[5]。HOPE study の糖尿病患者のサブグ
ループ解析では、血圧コントロールが同等である場合、ACEI は顕性蛋白尿
の発症を 24%抑制した[6]。Irbesartan in Patients with Type 2 Diabetes and
Microalbuminuria (IRMA2) Study では、ARB はアルブミン尿を 38 %減少さ
せ 、 顕 性 蛋 白 尿 へ の 進 展 を 70 % 抑 制 し た [7] 。 Irbesartan Diabetic
Nephropathy Trial(IDNT)では、ARB はクレアチニンの倍増、末期腎不全、
あるいはその他の理由による死亡を 20 %減少させた[8]。RENAAL では、
ARB は蛋白尿を 35 %減少させ、末期腎不全への進展を 28 %抑制した[9]。
このようなレニン・アンジオテンシン系の阻害剤の効果としては、血圧依存
性のものと血圧非依存性のものがあり[10]、血圧非依存性の腎保護効果とし
ては、糸球体内圧軽減、抗酸化ストレス作用[11]、腎臓の慢性低酸素状態の
改善[12]が重要と考えられている。


日本腎臓学会CKDガイド
治療                             目標
血圧コントロール                       130/80 (顕性蛋白尿の場合 125/75)
レニンアンジオテンシン系の抑制                血圧が管理目標に達しなければ多剤併用
血糖コントロール                       Glycosylated Hb < 6.5%


National Kidney Foundation Guideline
治療                                     目標
血圧コントロール                               130/80
レニンアンジオテンシン系の抑制                        通常は利尿薬と併用
脂質代謝異常の是正                              CKD stage 1-4 で LDL cholesterol > 100
                                       mg/dl なら statin 使用
                                       ただし維持透析患者では特異的な心血管上
                                       の適応がなければ statin は不使用
血糖コントロール                               Glycosylated Hb < 7.0%


(4)末期腎不全に至れば透析:他疾患による腎不全患者に比べ、血清クレ
    アチニンが低値のうちから溢水などの症状が強く出現することが多
    く、早期の導入が必要。糖尿病性腎症による透析導入患者は毎年増加
    しており、疾患別透析導入患者数では第一位である。 予後は他疾患に
    比べて不良であり透析導入後5年生存率は低い(約 50 %)。


経過:1型では、糖尿病発症後 5 - 10 年で微量アルブミン尿、10 - 15 年で
顕性蛋白尿、ネフローゼを呈し、顕性腎症となってから 5 - 7 年で末期腎不
全に至る。
2型では、発症後 10 - 15 年で 20 – 40 %の患者が微量アルブミン尿を呈す
るようになり、更に 5 - 10 年の経過で 20 – 40 %の患者が顕性蛋白尿を発症
する。顕性蛋白尿発症後の腎機能低下速度は患者による個人差が大きいが、
平均すると未治療の場合年 10 mL/min 程度のクレアチニンクリアランスの
低下を示す。
Recommended Reviews: [13-15]


[ 2 ] 高 尿 酸 血 症 に 伴 う 慢 性 間 質 性 腎 炎 ( 痛 風 腎 gouty

nephropathy)
慢性高尿酸血症における間質性腎障害の発生については、          高率に合併する高
血圧・血管障害・老化に原因があるとする否定的な見解があったが、フロリ
ダ大学の Richard J. Johnson を中心にこの概念を再検討する動きがあり、
最近では高尿酸血症による慢性間質性腎障害の存在が認知されるようにな
ってきた。


【膠原病】

[1]全 身性エリテマ トーデス                  Systemic Lupus

Erythematosus (SLE)】
概念:SLE が原因となって生じる腎障害をループス腎炎という。SLE は、
膠原病の中でも最も腎障害を惹起する疾患である。
病因:その発症には種々の自己抗体が関与し、流血中の免疫複合体の沈着
(circulating immune complex)、糸球体基底膜局所での免疫複合体の形成(in
situ immune complex formation)、などにより、多彩な腎炎が惹起される。


臨床症状:SLE の全症例の 50 – 80 %にループス腎炎を合併する。
蛋白尿、血尿、顆粒円柱、細胞性円柱などの、多彩な尿沈渣所見を呈する
(telescopic sediment)。
低補体血症(C3, C4, CH50:古典経路の活性化による)、抗 ds-DNA 抗体高値
は、腎炎の活動性と相関する。


組織所見:
ループス腎炎の病理学的特徴は、多様な質の病変が、分節性に、しかもある
一定のパターンを呈さず、混在して糸球体に分布することである。現在、組
織学的分類は 2004 年に国際腎臓学会・国際腎病理学会合同で分類改訂され
たものが使用されている。


I型       微小メサンギウムループス腎炎
II 型     メサンギウム増殖性ループス腎炎
III 型    巣状ループス腎炎
IV 型     びまん性ループス腎炎
V型       膜性ループス腎炎
VI 型     進行した硬化性ループス腎炎


蛍光抗体法では、   メサンギウム領域、     係蹄に沿って免疫グロブリン(IgG, IgM,
IgA)や補体成分(C1q, C3, C4)が多彩に沈着している像が得られる(full house
pattern)。
電子顕微鏡では、   蛍光抗体法と合致して、      糸球体内の各所に沈着物を認める
が、この沈着物に特徴的な指紋様の所見を認めることがある (fingerprint
pattern)。
NIH の scoring system
活動性の指標                 慢性化の指標
糸球体病変
1.細胞増殖                 1.糸球体硬化
2.フィブリノイド壊死、核崩壊        2.線維性半月体
3.細胞性半月体
4.ヒアリン血栓、wire loop
5.白血球浸潤
尿細管間質病変
1.単球浸潤                 1.間質の線維化
                       2.尿細管萎縮
(各項目を0~3で評価、     フィブリノイド壊死および細胞性半月体について
は点数を2倍する)
(Wire loop 病変:内皮下の大量の免疫複合体の沈着が、光顕上エオジン好
性の係蹄肥厚像として観察されるもの
ヒアリン血栓:同様の沈着が、係蹄内腔に認められるもの)


診断:SLE の診断基準に従い、
(1)1日 0.5 g 以上の持続性蛋白尿、
(2)尿沈渣中の細胞円柱、
の2つの尿所見が、他の SLE 特有の臓器症状のいくつかと共に認められれ
ばループス腎炎と診断できる。    ただし、組織型により治療方針が異なるため、
ループス腎炎と診断されても、状況に応じ腎生検を行う。


治療:病状に応じて、副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬が使用される。血
漿交換の効果については議論が分かれており、積極的には勧められない。
急性期には十分な治療が必要であるが、ステロイドや免疫抑制剤を長期的に
漫然と投与することは避けねばならない。


経過:一方、慢性の経過で透析に導入されたものでは、安定した維持透析が
続き、SLE の腎外症状も免疫学的活動性も消失し、ステロイド治療が不要
となる例が多い(burn out lupus)。
Lupus paradox:SLE では補体の過剰な活性化に伴う低補体血症がみられ、
不適切な補体の活性化が病因に重要と考えられている。        一方、補体の古典経
路の先天的な欠損患者では SLE が高率に発症することが知られてお
り、”lupus paradox”といわれていたが、最近これは補体がアポトーシス細胞
の処理に重要であり、        先天的欠損患者においてはアポトーシス細胞が適切に
処理されないことが SLE の発症原因となっていることが分かってきた。


Recommended reviews: [16-18]


[2]全身性強皮症 Systemic Sclerosis(SSc)
概念:SSc は皮膚硬化を主症状とする全身性結合組織疾患である。種々の
程度の腎障害を伴うことがあるが、renal crisis (強皮症腎クリーゼ)が最
も特徴的である。


臨床症状:強皮症腎は、15 – 30 %の SSc 患者にみられ、緩徐に進行する
腎機能障害で、蛋白尿(ネフローゼにはならない)、高血圧、腎機能低下を
呈する。
強皮症腎クリーゼは、    突然発症する予後不良の状態であり、高レニン性悪性
高血圧・脳症・うっ血性心不全・急速に進行する腎不全を呈する。SSc の
5 – 10 %にみられ(本邦ではこれより少ない)、発病後5年以内のびまん型
皮膚硬化進行期に起こることが多い。
まれに、    正常血圧性腎クリーゼをみることがあるが、これは悪性高血圧を示
さずに急速に腎不全に陥る病態であり、p-ANCA 陽性のことが多い。


強皮症腎クリーゼの診断基準(Traub ら)
(1) 高血圧(160/90 mmHg 以上)の出現または増悪(突発的発症)
(2) 網膜症:Keith-Wagener III~IV 度
(3) 血漿レニン活性上昇:正常上限の2倍以上
(4) 腎機能の急激な低下
      (4) を認めるか、(1)~(3) が認められること
強皮症腎クリーゼの診断基準(Steen ら)
(1) 拡張期高血圧(110 mmHg 以上)の新たな出現
(2) 急速進行性腎不全:他に原因のみられないもの
副所見:高血圧性網膜症(Keith-Wagener III~IV 度)、痙攣、蛋白尿、血尿、
微小血管障害性溶血性貧血、高窒素血症、高レニン血症
      (1)(2) のいずれか1項目と、副項目の2項目を認めること


組織所見:強皮症腎では、腎中小動脈(葉間、弓状)の内皮細胞下の浮腫性
粘液性の基質の増生、外膜周囲の線維化、血管内腔の狭窄、尿細管の萎縮と
間質の線維化、糸球体の荒廃などをみる。
典型的な強皮症腎クリーゼでは、更に糸球体輸入細動脈のフィブリノイド壊
死・狭窄・血栓をみる。他の悪性高血圧との違いは、外膜と外膜周辺の線維
化がみられることである。
一方、正常血圧性腎クリーゼでは、半月体形成性糸球体腎炎の病理像をみる。


治療:典型的な強皮症腎クリーゼには、ACE 阻害薬が有効である。
一方、正常血圧性腎クリーゼに対しては、副腎皮質ステロイド剤などが用い
られる。


[3]関節リウマチ RA
関節リウマチでは、様々な原因の2次性腎障害がみられる。 腎障害の原因と
しては、抗リウマチ薬による薬剤性腎障害が最も多いが、 2次性アミロイド
ーシスもみられる。原因薬剤が金製剤や D-ペニシラミンの場合は2次性膜
性腎症が、NSAIDs の場合はネフローゼを伴う急性間質性腎炎、無症候性慢
性間質性腎炎が起こる。   関節リウマチそれ自体で起こる腎障害は多様である
が、糸球体病変は膜性腎症の組織型をとることが多い。   原発性膜性腎症と類
似するものの自然寛解が起こる可能性は低い。


[4]シェーグレン症候群
唾液腺、涙腺の炎症性細胞浸潤と破壊に伴う分泌障害を主徴とし、関節痛、
リンパ節腫脹、腎病変などの腺外病変も伴うことがある。間質性腎炎、尿細
管性アシドーシス I 型および II 型、腎結石などがみられる。


【感染症に伴う腎障害】

[1]溶連菌感染後急性糸球体腎炎
概念:溶連菌感染後に、一定の潜伏期間を経て、血尿、浮腫、高血圧を3主
徴として急性に発症する腎炎。


臨床症状:血尿  (顕微鏡的血尿は必発、  肉眼的血尿がみられるのは1/3) 、
蛋白尿(ネフローゼにはならないことが多い)、乏尿、高血圧、浮腫、低補
体血症、ASO 高値などがみられる。但し、3主徴の全部が認められる症例
は 40 %である。
腎症に先立ち上気道感染症が 1 - 2 週間(平均 10 日)程度先行する。皮膚
感染症が先行する場合は、潜伏期が 3 - 6 週間と長めである。
溶連菌の初感染を受ける 4 - 12 歳に最も多い。


組織所見:びまん性管内増殖性変化が主病変。糸球体は腫大し、炎症細胞の
浸潤により糸球体係蹄内腔は閉塞してみられる。免疫組織学的には、IgG と
C3 の沈着でメサンギウムや係蹄が多彩に染まる。電顕では、上皮下に沈着
物 (hump)が証明される。

診断:臨床的に診断できれば、腎生検は不要。非典型例では、必要に応じ腎
生検。


治療・予後:保存的治療。既に発症している腎炎に対しては、抗生剤は無効。
予後は良好である。


[2]肝炎ウイルス感染に伴う糸球体腎炎
HBV によるものは典型的には膜性腎症を呈し、感染後数ヶ月から数年で発
症する。 ウイルス関連抗原の糸球体への沈着が証明される。
     HB                      小児に多く、
通常ネフローゼを呈するが、seroconversion と共に自然消退する。成人の場
合はトランスアミナーゼの上昇をみるが、  小児の場合は肝機能異常を示すこ
とは少ない。HBV 腎症では、血中のウイルス量も多く、ステロイドや免疫
抑制剤の使用はウイルスの複製を増加させ肝疾患を進行させる可能性があ
る。ラミブジンやインターフェロンを用いた抗ウイルス療法が行われること
もあるが有効性は確立していない。
HCV によるものはクリオグロブリン血症に伴う膜性増殖性糸球体腎炎を呈
し、感染後 10 年以上で発症する。クリオグロブリン血症による紫斑や関節
炎を認めるのは半数以下にすぎない。HCV 腎症の治療法は確立されていな
い。血中のウイルス量があまり大量でないことが多く、通常の糸球体疾患で
使用されるステロイドなども腎炎に対し使用可能である。但し、膜性増殖性
糸球体腎炎については一般にステロイド不応性であることが多いことに留
意すべきである。インターフェロンは長期的には有効と報告されているが、
速効性は期待できない。


[3]HIV関連腎症
HIV 患者には様々な腎病変が合併するが、狭義の HIV 関連腎症とは、アフ
リカ系黒人の HIV 感染症患者に好発する collapsing variant 型の巣状糸球体
硬化症を意味する。   高度蛋白尿と進行性の腎機能障害を呈し、           短期間で末期
腎不全に至る予後不良の疾患である。


【血管炎症候群】
微小血管から大血管まで、様々なサイズの血管に障害が起き、そのサイズに
よる Chapel Hill 分類が用いられる。
腎糸球体毛細血管を障害する血管炎としては、顕微鏡的多発血管炎
(microscopic polyangitis, MPA) 、 Wegener 肉 芽 腫 症 (Wegener’s
granulomatosis, WG) 、 Churg-Strauss 症 候 群 (Churg-Strauss syndrome,
CSS)が挙げられる。特に、MPA と WG は血清中に抗好中球細胞質抗体
(ANCA: anti-neutrophilic cytoplasmic antibody)を高率に認め、ANCA 関連
血管炎を呈し、病理学的には糸球体に免疫グロブリンや補体の沈着を欠
く”pauci-immune”型の半月体形成性糸球体腎炎を呈するのが特徴である。
【その他】

[1]アミロイドーシス
概念:アミロイドーシスは、アミロイド線維が全身の諸臓器に沈着し、その
ための臓器障害を来たす疾患であり、腎臓もアミロイド線維の沈着によりア
ミロイド腎といわれる病変を呈する。


臨床症状:ネフローゼを伴う慢性進行性腎不全を呈する。
続発性アミロイドーシスおよび遺伝性アミロイドーシスの患者に多い。
末期まで、腎臓の大きさが保たれることが特徴である。


組織所見: 主に糸球体にアミロイドが沈着し、Congo red 染色により、光
顕で赤色に、偏光顕微鏡で緑色に染まる。電顕では、アミロイド線維が80
Å程度の径をもつ線維の不規則な配列として観察される。


診断:教科書的にはアミロイドーシスは腎生検の禁忌とされているが、実際
は腎生検でアミロイド線維が証明され、診断されることも少なくない。


治療・経過:続発性アミロイドーシスには原疾患の治療、原発性アミロイド
ーシスに対しては MP 療法・VAD 療法・高用量メルファラン+自己血末梢
血幹細胞移植などが行われる。  有効性を明確に示す治療成績はなく、 予後は
不良。


[2]多発性骨髄腫
概念:多発性骨髄腫は、  免疫グロブリンを産生する形質細胞が腫瘍化したも
のであるが、約 50 %の患者に経過中に腎障害が出現する。


病因:免疫グロブリン軽鎖が、糸球体を通過し、尿細管円柱となり、尿細管
腔を閉塞することにより起こるものが、狭義の骨髄腫腎である。その他に、
高 Ca 血症、治療に伴う高尿酸血症、アミロイドーシスなど、種々の原因で
腎障害を起こしうる。
臨床症状:尿定性では蛋白  (-)であるが、定量では大量の蛋白尿を認める。
慢性進行性のことが多く、多発性近位尿細管障害をきたすと Fanconi 症候
群を呈し、髄質障害では腎性尿崩症を認める。また、高 Ca 血症などによる
急激な腎機能低下を示す場合もあり、腎不全が初発症状の患者もみられる。
M 蛋白の影響で、電解質異常として偽性低 Na 血症がみられ、M 蛋白が IgG
クラスの場合は IgG が陽性荷電のために低アニオンギャップ(<5 mEq/l)がみ
られる。


治療・経過:透析療法により約 50 %は腎不全から回復するが、生命予後は
不良であり、化学療法への反応性が予後を決定する。


[3] 溶血性尿毒症症候群 Hemolytic Uremic Syndrome (HUS)
    血 栓 性 血 小 板 減 少 性 紫 斑 病 Thrombotic Thrombocytopenic
    Purpura (TTP)
概念:血管内皮細胞障害による微小血管における血栓形成と、それに伴う臓
器の虚血症状および溶血性貧血を呈する疾患で、まとめて thrombotic
microangiopathy (TMA)として分類される[19]。


臨床症状:HUS では、急性腎不全、微小血管障害性溶血性貧血、血小板減
少が3徴である。実地臨床上は、大腸菌(O157 など)感染による下痢を伴
うものと、その他のものに分けられる。その他のものの原因としては、補体
調節蛋白の遺伝子異常が指摘されている。TTP は、上記3徴の他に、中枢
神経症状、皮膚症状などを呈するものを言い、原因として von Willebrand
factor cleaving protease の異常があることが判明してきた。


                   典型的HUS            TTP
好発年齢                 幼小児             成人
発症の仕方                 急激             緩徐
障害される主な臓器             腎臓             脳神経
予後                    良好             不定


更に、                           抗
   薬剤性として bevacizumab (アバスチン®、 VEGF 抗体)によると思
われる TMA も報告されている[20]。
組織所見:内皮細胞の腫張と基底膜からの剥離、内皮下腔の拡大などを認め
る。


治療:大腸菌感染性の HUS は、保存的治療が原則である。血漿交換あるい
は血漿輸注は、その他の HUS と TTP に有効とされる。


経過:大腸菌感染性の HUS は通常予後良好。一方、その他のものは難治性、
再発性で、予後不良。


[4]IgG4 関連硬化性疾患
概念:自己免疫性膵炎に合併して、種々の臓器に IgG4 陽性の形質細胞とT
リンパ球が浸潤する全身性疾患。


臨床症状:膵臓以外のどの臓器に浸潤がみられるかによって、臨床症状は異
なる。硬化性胆管炎、唾液腺炎、後腹膜線維症などに加え、尿細管間質性腎
炎もみられることがある。ステロイドに対する反応性は一般に良好である。


[5]Cardio-Renal Anemia Syndrome
腎機能低下患者で最も重要な死因は心血管死である。腎機能低下患者は、高
血圧をはじめとする様々な古典的な動脈硬化の促進要因や、非古典的な動脈
硬化促進因子を持っており、その結果として心血管障害の頻度が非常に高ま
っている。
慢性腎臓病患者における心血管障害の危険因子
古典的危険因子                                非古典的危険因子
加齢                                     アルブミン尿
高血圧                                    ホモシスチン
脂質代謝異常                                 貧血
糖尿病                                    カルシウム・リン代謝異常
喫煙                                     慢性炎症
                                       酸化ストレス


一方、 心血管障害の危険因子である酸化ストレスは、               同時に腎障害をも進行
させる。また、心機能が低下して腎血流が低下すると、腎臓は慢性虚血状態
に陥り、更に腎機能障害が進行する。
慢性腎疾患患者では腎性貧血がみられるが、              貧血は臓器への酸素運搬能を低
下させ、更に心機能低下、腎障害の進行を引き起こす。
このように、腎障害、心血管障害、貧血の3者がお互いに vicious cycle を
作 っ て 疾 患 を 増 悪 さ せ て い く 、 と い う 概 念 が Cardio-Renal Anemia
Syndrome であり、単一臓器の障害に囚われない総合的な治療が必要であ
る[21]。



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